東京からの便り。2013年03月18日 22:40



東京の開花と時を同じくして、東京の大学からの長い女ともだちから失恋の便りが届いた。先週誕生日を迎えたばかりの、ふたつ年下の、でも同級生である。
人の声を聴いた途端に受話器の向こうで声を潤ませやがって、ゴメンとか、声が聴きたかったとか、ありがとうとか、千々に乱れている。

その昔、彼女の結婚式の前夜、明日は新婦となるはずの彼女から電話がかかって来て、「明日はダスティン・ホフマンになってね」と言われた。もちろん映画「卒業」のベンのことを言っているのであって、さしづめ自分はエレンの役どころという意味だったんだろう。

翌日の神田教会のバージンロードで大勢の親族友人たちが見守る中、僕たちは人知れず目を見合わせてニヤリとしたけれど、僕は別段暴れたりしなかったので、エレンは映画の結末とは裏腹に無事嫁に行った。ただ彼女はその結婚にも次の結婚にも破れ、現在は立派に悪女に成長した娘と二人暮らしをしているらしい。

亡くなった大塚博堂さんに名曲「ダスティン・ホフマンになれなかったよ」というのがあった。一応お断りしておくと、僕たちはお付き合いしたこともないし、だから僕は「なれなかった」訳ではない。そうした言葉遊びを理解し合える意味においては男女を超えた仲良しだったかもしれないけれど。昨年東京で二十数年ぶりに会った時、彼女の現在進行形の道ならぬ恋を聞いてはいたけどね。


なので僕は、想像を超えた彼女の悲しみぶりを、特段慰める訳でもなく黙って聞いていた。
ふと、昨年の四月六日に、彼女をよく知っているテラオやタケさんと一緒に眺めた足立区の舎人公園の櫻が浮かび、あのときの花火がふたたび僕の中で打ち上がった。

今年の四月六日も舎人公園で櫻と花火の催しがあるけれど、東京の櫻はそれまで持たないだろう。
でも多分その日に僕は彼らと酒を飲み、おそらく僕は彼女のことは話さないと思う。

彼女の嘆きがひとしきり収まった頃、四月六日まで東京の櫻を持たせて欲しい。と僕は頼んだ。

男と女22005年07月07日 23:29

深夜の路上に取り残されて一週間。 

大嫌いなメールを送ってみたりする情けなさで、
二十五歳年下の女性とコミュニケーションを図る。
あの晩の不思議などきどき感を取り戻そうとの哀しい作業。
第一、あの小さな機械に向かっての女々しい操作がどうにも我慢ならない。

ようやく成人した女にとって、その小さな機械は、
生活には不可欠なものらしく、
居酒屋にいるときも、バーにいるときも、
気がつくと「抜く手も見せぬ早業」で、
いつ着信したとも知れぬメールに返信していたりする。

通常なら、そのこと自体に
「こら、席を外すとか、後にするとか、ちょっと失礼とか…」
とこちらの逆鱗にふれるところなのに、
めずらしくその「若者の習俗」に見とれている自分に驚く。

ところがその「抜く手も見せぬ」相手から返事が来ない。
むきになって何通ものメールを送り、
しまいにはまどろっこしくて「この機械は電話じゃないか!」
とコールしてみるけれど留守番になっている。
ようやく来た返信には、
「今、忙しくて電話に出れません。メールもちょっと無理なんですう」
非礼を問うような文面に対しては、
「私にだって用事があるんです。いちいちいつ何をしていたからって、
プライベートの全部を説明なんてできません!」
と、丸一日以上の空白の後、返事が来た。

その翌日。
その日が、深夜の路上からちょうど一週間。
ひとりでいた事務所に彼女が現れた。
「事務所に顔を出しに来たのではなくて、
azumashikikuniさんに会いに来たんですよ」

こいつ、心得てやがる。

でも、こっちの中では、あっさりと何かが氷解してしまう。
つい、ぺらぺらと、しかも明らかに咎めるニュアンスはほとんどない塩梅で、
あんなにいつでも誰にでも間髪入れずの「会話」をしているのに自分には…、
てなことを口走ってしまった。

「だって、ほかの人のメールには反射的に何も考えずに返事するのに、
azumashikikuniさんにだけは、考えて、考えて打って、やっぱり消してしまったり、
送るのやめちゃったり…。わからないでしょう、そんなあたしの…」

こちらは、でも、逢いたくなったりしなかったのか、的なことをさらに口走る。
 
「なったりしたに決まってるでしょう。でも、azumashikikuniさんには、
あの、わかるでしょ、何、言おうとしてるか。(間)
ご家族がいるし、お子さん可愛いし、あのとき会っちゃってるから。
逆に、どう考えてるのかな、って。azumashikikuniさんは。
のめりこんじゃいけないって、自分に言ってるんです」

気がつくと、あの晩のバーカウンターの濃密な雰囲気が再現されていた。

このまま、呑みに行こう、と誘う。
今日は用事がある、と彼女。
そんなのやめちゃえ、と少々強引に言う。
そんなの無理です、と彼女。
急におなか痛くなったんだから仕方ない、と無茶苦茶を言った。
そんなの無理です、と再び彼女。

「だから、のめり込んじゃいけないんです、私、
azumashikikuniさんに。この前は道で腕組んじゃったけど…。
今日付いてったら、今度はきっと手をつないじゃう。
今日付いてったら、きっとキスして欲しくなっちゃう。
ああ、だめだ。ほんと、今日はだめ。
絶対そうなっちゃう。今日付いてったら、絶対そうなっちゃう。
キスしたら、ああだめ、ホテルとか、きっとそうなって、
そんなことしたら、息子にごめんなさいだよ、奥さんにも」

すごいこと言うな、と思いながら、
そこまでの下心より、とりあえずこのまま帰したくはない、
もうひと押し…。

そこに、よく知った顔の来客。
ここは事務所だった。
すばやく顔を作り直す。
どうも、どうも!

ドアから滑り出す彼女。

男と女。2005年07月02日 14:24

25歳年下の女性とデートした。
彼女の父親は僕と同じ年齢だという。

 彼女は年齢差はあるけれど同業者で、彼女のある日の仕事場に差し入れを持って(ほかのスタッフも全員仲間だったので)いったら、それを後から妙に「あの時は凄く嬉しかったです!(笑顔マーク)」てな感じで携帯メールをもらったのがきっかけ。
 その後、メイクや服装に僕の好みを言うと、突然その通りに変身して事務所に現れたりするので、これはどう受け取ればいいんだろう? なんて、少々困惑。だって、彼女の分厚いマスカラとアイラインの目元に「肌のきれいな君にはスッピンこそ似合うはずだ!」なんて調子に乗って言ってたら、翌日ホントにスッピンで登場するんだもの。

 業界では突然現れて抜群の実力を発揮、引っ張りだこの彼女だが、彼女に「やられている」おっさんが後を絶たない、といった噂も耳にしている。「やられている」の実態がどういうことかよくわからず、まさか彼女に押し倒されている訳でもなかろうけど、「嬉しかったデス(笑顔マーク)」的な攻撃にその気になっては、サラリかわされているということだろうか?
 
無垢な魂?
計算づくの小悪魔?

特別美人という訳ではないけれど、華奢な体つきにショートヘア、良く動く目、どちらかと言うとキュートというんだろか。

 あるライブを鑑賞した後で、居酒屋さんへ。彼女は、日頃から、まったく一滴も飲めないと公言しており、事務所の花見でも確かに一滴も飲んでいなかったのに、「まったくって訳でもないんですよぉ」とか言いながら、日本酒が美味なことで評判な店なのに、なんとかネーブルのサワーを「甘くておいしい!!」とのたもうて、なんやかやと3杯。いや4杯。普段マスカラに邪魔されていた目元には、少女の面影すら漂っていたのに、そこにほんのりと赤味がさすと、立て続けに日本酒をあおっていたこちらの目には、なにやら色っぽく感じらて来るので困った。

「ぼくら、二人きりで飲んでるなんて不思議だね」
「だって○○(自分の名前)、azumashikikuniさん(僕の名前)が大好きなんです!」

 この辺が企んでか、企まざるのか、思わず「好きにもいろいろあるけどさ」とか、聞き返したくなる気持ちをぐっとこらえる。相手は娘同然、そうさ、「好き」なんて無限大。父と娘の好きもある。いずれにせよ、こりゃ2軒目に行かねばなるまい。
 
 どうせ甘い飲み物しか飲まないのなら、と、札幌でも名の通った、いわゆる「オーセンティック・バー」へ。
 こっちは「大人にはこんな世界もあるんだ」的見得はりで、「自分の飲みたいカクテルのイメージを、なんでもいいからバーテンダーさんに伝えるんだ。こちらプロだから、必ず望みを叶えてくれるよ」。
 カシスやオレンジや様々なフルーツが、見たこともない美しいカクテルに仕上がってゆく様子や、見事なシェーカーさばきに感嘆の声を上げる彼女の様子に、これはなかなか大人な選択だった、ヨシヨシ。と満足しながら、ふと時計を見ると、午前0時を回っていた。

 今宵がスタートするとき、何時までに帰ればいいの? と訊いていた。地下鉄の最終が12時なので、それまでには、ということだったのだ。

「私、お泊まりって、いまだに許してもらえないんです、両親が厳しくて」「彼氏がいるときでも、夜遅くても、ちゃんと帰って来さえすれば、彼と一緒に帰って来て、一緒に寝ようが、一緒にお風呂に入ろうが、それは何も言われないんですけれども」
 そういうのって、厳しい親って言うのか!? 以前、聞いたとき、そう思ったのを思い出した。

「お酒を飲んじゃうと、気に入った人が隣にいるとき、すごく思い切ったこと言ったりしたりしちゃんですよね、だから普段はなるべく『飲めませーん』って…」
 それは前日、デートの約束をした時の話だった。

 今、午前0時をまわって、パーカウンターには自分たち二人きり。彼女は「楽しい!」「素敵!」「おいしい!」を連発している。
「12時過ぎちゃったね」と耳打ちしても、さして慌てた様子もない。気がつけば、僕の左の大腿部あたりには、僕の左側に座っている彼女の右手の平が置かれている。

 もうちょっとしたら、タクシーで一緒に彼女の家に帰って、僕と同じ年の「厳しい両親」に、遅くなった詫びを一言伝え、頭を下げて、それから一緒に風呂に入って、一つのベッドで寝るという恐るべき(華麗なる?)展開が、一瞬、頭をよぎった。それはかなり、一般常識的には、というより、はなはだ非常識な状況で。でもそれは、父親と同じ年の男を深夜に連れて帰った娘の非常識なのか、外泊するくらいなら、自分(父親)と同じ年の相手とともに帰宅してくれた方がまだ安心、という両親の非常識なのか、相手の親が自分と同じ年齢と知りつつ、その娘の自宅に帰宅する僕の非常識なのか…。

 恋愛初心者の頃のように、この先の進展を期待したり、怯えたり、どぎまぎしながら深夜の路上へ。

「今日はごちそうさまでした。もっと一緒にいたいけど、厳しいウチなのでゴメンナサイ。そこまで、お兄ちゃんが迎えに来ているの!」

ややしばらくして、ひとり残された路上に、メール着信。

「○○、今日azumashikikuniさんとい(ら)れて、もの凄く、楽しかったです。くっつけたし…(笑顔マーク)」

女もすなる日記というもの…。2005年06月13日 21:18

最近ながいこと見ていなかった夢をよく見る。日記の恥ずかしさと夢の恥ずかしさには共通点があるみたい。書いた瞬間、見た瞬間から、自分の嫌らしさにほとほと自己嫌悪しながらも、数秒後には何のことだったか思い出せない。華麗なるいい加減。限りない無責任。みだらな片思い。尽きない性欲の果て。書いた瞬間から破り捨てたい日記と、見た瞬間から思い出せない夢と、似てないようで似ている。

最近知り合った娘は、父親が僕と同じ年で、でも、同じ「そーぞーてき」な仕事をしたりしている。まっとうに親になっていれば、この娘くらいの子供がいても不思議はない自分に「思わず遠くに来たもんだ」なんて感慨を覚えつつ、そういう娘を口説いたり、ましてどうにかなるというのは、どういう状況かな、なんて、さわやかな「おやすみ」を投げかけた背中に問いかけている。

少し前にそばにいた娘は二十歳離れていたけれど、基本的に年齢差は関係ない、という当たり前の結論に至った。向こうからすれば一人の男だし、こちらからも普通の女に過ぎなかったな。もうそこにはいないけれど。

僕が父親と同じ年だという彼女は、みんなが茶色い髪しているとき、人と同じでいいなんて考えられん、すぐにマスカラがなくなっちゃうようなアイメイクも自信のない証拠だ、と言ったら、次ぎに逢うまでに変えてみると言っていた。
年上ぶってそんなこと投げかけていい気になっている自体、むしろ彼女の策に既にハマっているとも言えるかな。

でも、「次」に逢うのをかなり楽しみしている。