ライターと蔵元の新酒の会2012年03月07日 20:32



夕張郡栗山町の小林酒造では、三月二日に甑倒し(こしきだおし)が行われた。甑とは酒米を蒸す桶のことで、甑倒しとは、秋から行われていた酒造りの完了を象徴した言葉である(写真は栗山の小林酒造記念館の二階にある、甑倒しの宴を再現した展示)。

十七、八年前にこちらを取材した時からのご縁で、四代目からは札幌の直営の酒亭『七番蔵』創業(二〇〇三年九月)のお手伝いをさせていただいた。わが『もっきりバル 風の色』(二〇〇九年十二月〜二〇一一年九月)の酒はもちろん北の錦だった。

毎年四月に行われる蔵まつり(今年は十四日/土と十五日/日)の際には、敷地内にあり、重要文化財に指定された本家に小林家の客人として特別に招き入れられ、まさに写真のような塗りの膳と器でもてなしてくださる。祭りの喧噪が嘘のような静かな時間に加えていただける光栄は、僕をかなり有頂天にさせる。

現専務取締役で弟の精志さんは、北の錦と日本酒、その文化を超熱血的に愛する奇想天外なアイデアマン。二〇一〇年七月に酒場詩人・吉田類さんの俳句の会北海道上陸を記念した講演会とトークセッションを企画した時、前日の吟行(俳句を詠むための旅)を快く受け入れ、北の錦のみならず、酒粕を使用した珍しい鍋などの蔵人料理で一行をもてなしてくださったのは、他ならぬ精志さんである。


二月中旬、精志さんから便りが届いた。
昨晩行われた宴のお誘いの便りである。

【ライターと日本酒の会のお知らせ】

 こんにちは。
 小林酒造の小林精志です。

 とっても唐突なお話があります。
 私は、これまでいっぱいの日本酒のイベントを開催して
 それで、今までいろいろなご職業の方とご縁を頂いて参りました。

 それで【お酒が取り持つ人の縁】が、やっぱり大切だよな。
 とか思います。
 
 たかが飲み会、されど飲み会。
 その中にも、なにか脳みその奥底で、いろんな【発想】とか、【ひら めき】とか、そういうのが人と人との関係性の中で、生まれてジュク ジュクと育っていくような気がします。

 それで本題です。
 かねがね、ライターさん。
 すなわちペンを持つ事が多いご職業の方と、私は凄くお話をしてみた いです。というか、私がこれまで頂いたご縁のあらゆる職種のライ  ターさんを集めたらどうなるだろうか。

 全部、違う職種のライターさんが集まる会は、おそらくないと思いま す。そう思って、いつか実現しようと思っていました。

 単に宴会じゃなく、きちんと話が届く範囲(8人くらい)の人数で
 心地良いお酒の2時間を作ってみたいのです。

 場所は、最近見つけた
    札幌駅から歩いて行ける、お寿司屋さんにしました。
 会費は○●円。

 ここは一つ、私のお願いを聞いて頂ければ幸いです。
 もしお時間が許すなら、是非是非、ご検討ください。

 私にできる事は、当日、一番いい新酒をたくさん飲んで頂くことが
 せめてもの御礼です。


こんなお誘いを蔵元からいただいて、訪ねて行かない人がいるだろうか。そうして確かにさまざまな言葉の仕事人が集まった。
編集ライター、コピーライター、フリーペーパーやウェブサイト編集者 は言うにおよばず、エッセイスト、作詞家、翻訳家と、それだけで知的好奇心がむくむくして来る。

全員の手元に三月二日に完成した新酒(昨晩精志さんが準備した七種類)の解説が配られ(これがまた精志さんのボキャブラリーで記されていて面白い)、今晩は熱い酒造りのシーズンが終わった自分へのご褒美なのだ! というユニークな挨拶で会は口開けした。

そのレジメには、精志さんが是非とも聴いてみたかったという、ライター一人一人への質問が添えられており、その質問をお題にした全員によるフリートークが繰り広げられるのが主なる会の趣向だ。もちろん新酒の出来映えについての精志さんの熱い口上と、それを口にした感想を思い思いに述べ合いながら…。質問はたとえば、

・今にも自殺しようとしている人に呼びかける言葉
・ウェブ上でしか知らない人間との付き合い方
・あなたにとって親友とはどんな付き合いをする人か(僕に来た質問)

等々。


造った人間の思いや、過酷な蔵の状況、技術的なエピソードなど、その背景にある諸々を聴きながらいただく新酒は格別だった。味覚を超えた異次元の味わいが寄り添って来るようだ。そこに、思いを言葉に置き換える仕事に携わる人間たちから精志さんが引き出そうとする何かが加わり、さらにその見えない何かが新酒を媒介として増幅して進行する不思議な宴。

かつて口にして味を知っているはずの酒が、同じ銘柄でありながらその趣を異にしているのは、造り手があえて製法をアレンジして今年の主張を醸しているからばかりではない。造り手の思いを聴いたこと、集う人々が予定調和なく発信している空気が言葉を紡ぐように混ざり合い、えも言われぬ時間、精志さんが作ってみたかったと言うところの“心地良いお酒の2時間”が確かに育まれていた。

それはさながら、演奏者と聴衆ならぬ、造り手と飲み手による丁々発止、いかようにも変化し双方が互いを触発し続けるライヴセッションだった。



コメント

_ オサナイミカ ― 2012年03月24日 17:55

今更ながらのコメントになりますが、先日はとても有意義な会でしたね!
最後、無理矢理引きとめてしまってホントにごめんなさい(反省)

また、ご一緒できることを楽しみにしております!

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